ホーム|患者さんのページ|専門医インタビュー|クローン病に挑む|渡辺 守先生

専門医インタビュー

クローン病に挑む

渡辺 守先生
東京医科歯科大学医学部附属病院
消化器内科(東京都文京区)
診療科長・教授渡辺 守先生
クローン病は症状さえ抑えればよい時代から、治す時代になりつつあります。クローン病だからといって決して悲観せず、適切な治療を受けて、信頼できる医師とともに一緒に明るく人生を楽しみましょう。

【略歴】
1979年慶應義塾大学医学部卒業、ハーバード大学研究員、慶應がんセンター診療部長を経て、 2000年より現職。
03年より、厚生労働省難治性疾患克服研究班「炎症性腸疾患の画期的治療に関する臨床研究班」班長、
07年4月より、「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班」班長

神田川のほとりにある東京医科歯科大学医学部附属病院の消化器内科 診療科長・教授、渡辺先生にお話を伺いました。

●原因は1つではないため「不明」と言われますが、病気が起きる仕組みはどんどん解明されています!

最近の研究により、クローン病に関してどのようなことが分かってきましたか?
病院外観

ここ10年ぐらいの間に、腸が非常に複雑な組織であることが明らかにされ、それに伴ってクローン病の起こる仕組みが解明されてきました。

よく考えてみると分かるのですが、腸は、体の内側にありますが、実は口から肛門までが管のようにつながっていることから、外界のさまざまなものに直接接触して、体を守る最前線に立っている組織なのです。しかも、腸は皮膚の200倍、テニスコート1.5面分の面積があり、外界に接する最大の防御組織と言えます。

また、腸は悪いものを排除する――防御――の役割を果たす一方で、良いものを取り入れる――栄養素の吸収――役割も果たさなければなりません。そのため、腸は悪いものと良いものを識別する機構として、"免疫"と呼ばれるものを発達させてきました。実際、免疫で中心的役割を果たす血液成分の1つであるリンパ球の60%は腸にあることが分かっており、腸は最大の免疫組織なのです。

さらに、腸には末梢血管(小さな血管)の55%、末梢神経(脳にある中枢神経以外の神経)の50%があり、最大の末梢血管組織にして最大の末梢神経組織なのです。その上、腸には、消化管ホルモンのほか、脳にあるホルモンがほとんどあるだけでなく、その量は脳よりも多いことから、最大のホルモン組織だとも言われています。

このように、腸は"第2の脳"と呼ばれるほど複雑な組織であることが明らかにされました。したがって、複雑な組織である腸に病気が起きているクローン病は、非常に複雑だというわけです。当然、クローン病は1つの原因で起こるわけがありません。腸という組織にかかわるすべての要素、外から入ってくる要素(例えば細菌、食物など)をはじめ、免疫、血管、神経、ホルモンなどすべてが絡み合って起こるので、「原因不明だ」と言われているのです。

ただし、最近の研究でクローン病の起こる仕組みはかなり解き明かされてきました。特に"体の免疫の異常"はくわしく解明されてきており、「腸内にあるいろいろなもの――口から入ってきた食物やウイルス、細菌、腸内に常にいる細菌など――をうまく処理する働きの異常」がクローン病を起こしていることが分かっています。


ホルモン:健康を維持するために、体内のさまざまな機能を調整する物質

●免疫の異常が解明されたことにより、これまでの治療の裏付けが得られ、さらに新しい治療の開発が進みました!

免疫の異常が解明されてきたことがクローン病の治療に与えた影響はどうでしょうか?

まず1つは、従来からの治療法である成分栄養療法、抗生物質、プロバイオティックス製品(乳酸菌製剤など)、ステロイドおよび免疫調節剤(アザチオプリン、6-MP)がなぜ効くのか分かり始めたことです。

これまで、これらの治療法は漠然とした概念のもと、経験則的に行われていたことが否めませんでした。しかし、腸内にあるいろいろなものを腸がうまく処理する機能、すなわち体の免疫の機能が正常に働いていないことがクローン病につながると分かったことから、これまでの治療法はおそらくこういう理由で効果を発揮しているのだろうという推測ができるようになりました。例えば成分栄養療法であれば外からのものを入れない、抗生物質であれば外から侵入し腸に影響を及ぼす細菌を調節する、という具合です。

また最も大きな影響は、免疫の異常を直接改善する新しい治療薬の開発を進めたことです。実は、クローン病の研究者は、私をはじめとしてほとんどがクローン病の患者さんを実際に治療している医師です。これは欧米でも同じです。したがってクローン病の研究は、日常の診療で疑問に思ったことを患者さんからの情報で解決していくという手法で行っています。そのため、新しく分かった研究成果がすぐに新しい治療法へと結びつきやすく、他の病気では考えられないようなスピードで新しい治療法が開発されてきたのです。その代表的なものが、抗TNFα抗体製剤の開発です。TNFαという生体内の物質が悪さをしており、それを抑えることで大きな治療効果が得られることが分かり、現在多くの患者さんに使用されつつありますね。

また、TNFαという物質がクローン病を起こす免疫の異常の主役に近い物質であることは確かですが、本当の主役かどうかは今のところ分かっていません。そこで、「TNFαのほかにも悪い影響を及ぼしている物質があるのではないか?」、「本当の主役はどれだ?」といった考えのもと、現在も新たなクローン病の治療薬の開発が進められています。これから先、有力な治療薬が相次いで登場してくるものと大きく期待が持たれます。

それでは、今後ますます多くの患者さんにおいて病状のコントロールが可能になるのでしょうか。
渡辺 守先生

その通りです。従来の治療法では、腹痛や下痢、出血などの症状をなくすことが目標でした。そのため、見かけ上、症状がなく安定していても、腸内で病気がどんどん進んでおり、結局、手術せざるを得なくなるケースが少なからずありました。

しかし、抗TNFα抗体製剤などの薬剤が開発され使用できるようになると、症状がなくなることはもちろん、腸内の病気の進行を抑えられるようになり、内視鏡的に見ても改善することが治療の目標となりました。また、腸の粘膜をきれいに治すことが可能になりました。私たちは、「遅れることなく早く強力な治療を開始すれば、クローン病の自然経過を変えられるのではないか」と感じずにはいられない患者さんを多数経験するようになりました。

実は抗TNFα抗体製剤を中心に、免疫調整剤、抗生物質、成分栄養療法、プロバイオティックス製剤などの今使える治療法を適切に使えば、7~8割の患者さんが緩解(症状が落ち着いた状態)を維持できると思っています。早くから抗TNFα抗体製剤による治療を開始した患者さんの一部には、「もう治ったのでは」と思えるような方もみられます。もちろん、決して、油断はできませんが。

クローン病は、「症状さえ抑えればよい」という考えの時代は終わり、今後は腸の粘膜をきれいに治す時代になっていくと確信しています。

●今後は、どの病院に行っても適切な治療が受けられるように、システムを作っていく必要があります!

しかし、現状で、本当に多くの患者さんが適切な治療を受け、十分に病状をコントロールされているのでしょうか?
渡辺 守先生

確かに、すべての患者さんが適切な治療を受け、十分にコントロールされていると断定できない部分はありますね。なぜなら、当科のクローン病患者さんのほとんどは他医療機関で治療に難渋したために紹介されてきた患者さんですが、十分な治療を受けていない患者さんも少なくない現実があるからです。ちなみに、本当に治療に難渋するケースは全体の20%ほどですね。

今後、その点について何か対策を考えられていますか?

腸の粘膜をきれいに治すことが視野に入りつつある時代にあって、適切な治療をされていないために緩解およびその維持を得られていない患者さんもいることは、非常に困った問題だと感じています。

そこで今後、厚生労働省難治性疾患克服研究事業、いわゆる「難病の班会議」などを活用し、患者さんがどこに住んでいても、どんな病院に行っても、適切な治療を必要なときにいつでも受けられるように、"治療における格差是正"を促進していくことも重要と考えています。

また、当院では患者さんの治療方針を決定する場合、必ず複数のクローン病専門医が一同に会して討論するようにしています。1人の専門医の考えで治療方針を決定するのではなく、複数の専門医がその患者さんにあった治療法を検討することで、よりよい治療が行えると考えているからです。このような討論の場といったものを全国規模でうまく機能させることができないかと、その方法論を「班会議」で検討を始めています。

●調子が悪くなったら、医師を信頼して、もう一度基本的な治療から始めてください!

患者さん自身は、自分に合った治療を受けるために何に気をつければよいでしょうか?

今のところ、クローン病の専門医がいる病院でも、ある病院では多くの患者さんは食事をせず成分栄養療法を受けており、ある医療機関ではお薬を使って自由に食事を楽しんでおられるというように、治療方法が異なっています。現状としては、1人の専門医の意見だけでなく、セカンドオピニオンなどを利用していろいろな専門医の意見を聞いてみることが大切だと考えています。自分にあった治療法を医師と一緒に考えることが大切です。

また、治療を行うにあたり、最も大切なことは患者さんのご理解です。自分勝手に判断すると、適切な治療をしていても効果が得られないことが少なくありません。もし、疑問に思ったことがあれば、主治医に遠慮せずどんどん意見をぶつけて、病気と治療法の理解を深めてください。

特に、治療がうまくいかなかった患者さんは、どうしても、「この治療をやっても以前には効かなかったから、やりたくない」「この薬は前に副作用がでたので心配だ」と自分で決めつけてしまう場合があります。しかしよく考えてください。クローン病の治療法は開発されてきたといっても、まだまだ非常に限られています。是非、「一度、頭を白紙に戻して、またどんな治療でもやってみよう」と前向きに取り組んでください。

渡辺先生から患者さんへのメッセージ渡辺 守先生

クローン病は、よく「慢性で、原因不明で、根本治療のない難病だ」と言われます。しかし、皆さんがよくご存じの高血圧や糖尿病などの生活習慣病も、クローン病と同じように慢性で、原因不明で、根本治療はありません。でもこれら生活習慣病は、適切な治療が行われれば普通に生活できることから難病とは言われていません。

そして、クローン病も、現在では、今ある治療法を適切に受ければ多くの患者さんは普通に生活できるようになってきています。したがって私は、クローン病はもはや高血圧や糖尿病などの生活習慣病と同じような病気ではないかと考えています。

クローン病だからといって決して悲観せず、信頼できる医師と一緒に明るく人生を楽しみましょう。

(2007年4月現在)