ホーム|患者さんのページ|専門医インタビュー|クローン病に挑む|本谷 聡先生

専門医インタビュー

クローン病に挑む

本谷 聡先生
札幌厚生病院
IBDセンター(北海道札幌市)
主任部長本谷 聡先生
有効な治療薬の登場で戦略が細かくたてられるようになりました。病気のために人生の目標をあきらめなくても大丈夫。

【略歴】

1986年 旭川医科大学医学部卒業。札幌医科大学内科学第一講座入局
1991年 社会福祉法人聖母会天使病院消化器内科
1995年 米国留学(Research Associate) Department of Pathology and Laboratory Medicine, Roger-Williams Medical Center Brown University
1998年 札幌医科大学内科学第一講座助手・医局長
2000年 札幌厚生病院第一消化器科医長
(兼 札幌医科大学内科学第一講座非常勤講師)
2003年 札幌厚生病院第一消化器科部長
(兼 札幌医科大学内科学第一講座臨床助教授(2007年に臨床准教授に名称変更))
2009年~ 現職
(兼 札幌医科大学内科学第一講座臨床准教授)

【主要研究分野】

IBD(クローン病・潰瘍性大腸炎)の臨床・腫瘍免疫学

札幌の都心部東側に位置する札幌厚生病院のIBDセンター 主任部長(当時第一消化器科 部長)、本谷先生にお話を伺いました。

●"北海道のIBD診療センター"を目指して

貴施設の特徴について教えてください。
病院外観

当院は17診療科・492床の中規模総合病院ですが、以前から消化器科診療に力を入れており、"消化器科診療に強い病院"として広く地域に認識されています。

実際、現在の消化器科の常勤医師は27名、病床数は180床と全体の約4割を占めており、炎症性腸疾患(IBD)を含む消化管疾患を主に診る第一消化器科、胆膵疾患を主に診る第二消化器科、肝臓疾患を主に診る第三消化器科の3科体制をとっています。

そのため、かねてから"多くの病院が対処に苦慮する消化器疾患を抱えた患者さんを積極的に受け入れる"姿勢を強く打ち出しており、IBDの患者さんが、道央を中心に函館、網走、帯広など北海道全域から多く来院されています。

クローン病患者さんの現況は、いかがでしょうか。

以上のような経緯もあって、2006年度に当院で作成した潰瘍性大腸炎、クローン病の特定疾患更新申請書類は800枚を超えるに至っています。したがって、当院では現在、少なくとも800名以上のIBD患者さんが診療を受けていると思われ、私たちは"北海道のIBD診療センター"的な役割を担っていると自負しています。

なお、クローン病の患者さんはIBD患者さん全体の半分を占め400名ほどです。一般的に潰瘍性大腸炎とクローン病の比率は2:1~3:1と言われていますが、当院のそれは1:1で、おそらく他院に比べてクローン病患者さんの来院が多い傾向にあると思います。

●昔も今も治療の根幹は "ステロイドに過度に依存しない"

どのような治療方針で診療されていますか。
本谷 聡先生

当院では、クローン病に対してステロイドと5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤のサラゾスルファピリジンしか治療に用いることができなかった頃から、抗サイトカイン療法時代を迎えた今日までずっと一貫して、"ステロイドに過度に依存しない"こと、すなわち"ステロイドの使用を最小限にとどめ、他の方法を駆使して緩解(症状が落ち着いた状態)導入、緩解維持を目指す"ことを治療の根幹にしてきました。

なぜなら、現行の全身性ステロイド(プレドニゾロン)は依存性に陥りやすい上に、その長期投与は多くの重篤な合併症を併発するため(軽症例に対する副作用の少ない局所ステロイド〔ブデソニド〕の開発も急がれてはいます)、長期的にみるとクローン病に対して意味のある薬剤ではないことが明らかだからです。

そこで私たちは、今なら当然ですが、昔から、激しい炎症にどうしてもブレーキをかけなければならないときに一時的にしか全身性ステロイドを用いていません。

●栄養療法を中心としたこれまでの治療の限界を痛感

では、先生の治療方針を具体的に教えてください。

かつては、高用量の5-ASA製剤と成分栄養療法で緩解導入に持ち込み、その後は常用量~低用量の5-ASA製剤を継続しながら、成分栄養療法、あるいは可能であれば低脂肪、低残渣の食事を中心とした食事指導を行いながら緩解維持を目指していました。

つまり、治療方針の中心に栄養療法があり、力を注いでいました。当病院のスタッフは食事指導に対する思いが非常に熱く、食事と生活指導の概要を独自にまとめた『クローン病・潰瘍性大腸炎に負けない暮らしの手引き:いきいきライフ』はすでに3巻を発行しており、患者さんからも多くの信頼と支持が寄せられていました。

ただ、そのような治療方針で、緩解が得られた患者さん、具体的には血液検査でCRPが正常、およびIOIBDスコア(クローン病活動指数)が0~1を満たした患者さんがどのくらいいたのかと聞かれれば、「いないわけではないが、十分であったとは言えない」厳しい現実がありました。なお、IOIBDスコアが0~1とは、腹痛、発熱、貧血などの症状や瘻孔がないといった状態です。

つまり、栄養療法を中心とした治療戦略では、確かに見た目の症状は安定しましたが、その背後で起こっていた病気の進行(炎症反応)を十分に抑えることができなかったのです。

そのため、その頃は、ステロイドを持ってしてもコントロールできないほどの激しい炎症で腸に孔があき、そこから炎症が腸の外へと広がり、重い合併症をきたす患者さんが少なくありませんでした。実際、私もそのような患者さんを経験しましたし、これまでの治療の限界を痛感し、有効な治療法の確立に日々奔走していました。

●抗TNFα抗体製剤を取り入れた方針を細かく練る

その後、どのような治療方針を確立されたのですか。
本谷 聡先生

そのような中、抗TNFα抗体製剤が日本でも使用できるようになりました。抗TNFα抗体製剤によって、確実に炎症が抑えられるようになり、先ほどもお話いたしました血液検査のCRPを正常化するとともに、 IOIBDスコアを0~1にしたり、消化管の粘膜病変をきれいに修復したりするチャンスがつかめるようになりました。

以後、私たちは、どのような患者さんに、どの様な使い方で抗TNFα抗体製剤を使用するのが最も良いのかについて、時間を忘れて検討しました。

ただし、小腸病変のコントロールは難しいことが多いため、抗TNFα抗体製剤の使用方法を患者さんごとに工夫したり、成分栄養療法(900~1,200kcal)を必要に応じて実施したりすることが少なからずあります。また、それでも緩解維持が困難な患者さんに対しては、その多くが瘻孔を有していることから手術療法を考慮することもあります。

抗TNFα抗体製剤登場後の現在は、例えば成分栄養療法・食事指導を主体にする方、抗TNFα抗体製剤などの薬物療法を主体にする方、薬物療法と栄養療法を併用する方など、患者さん個々の病態に応じて治療方針を細かくたてられるようになっています。

最近では、軽症であれば、仕事や学校の都合などを考慮して外来で治療を始めるケースもありますが、当院では、初回治療時には個別に治療戦略をたてる意味合いもあって、重症度にかかわらず一度入院していただき、各専門職スタッフが一丸となってそれぞれの立場から患者さん1人ひとりをサポートしています。例えば病棟看護師は、入院中毎日1時間ずつ、独自に作成した疾患ガイドパンフレットを用いて個別指導を行っています。また、管理栄養士は病棟や外来で個別の栄養指導を行ったり、クローン病相談室を開催して最新情報を患者さんにご提供したりしています。

治療成績は向上したと思われますか。

客観的なデータが少なく、あくまでも私の印象ですが、特に大腸病変が中心の患者さんに関してはかなりコントロールできようになりました。炎症がどんどん悪化して重い合併症を併発し、大腸・結腸切除術を施行せざるを得なくなるといった患者さんが確実に減っていると思います。

また、大腸型の患者さんでは、成分栄養療法を中止して食事を開始しても、症状が悪化せず、潰瘍もきれいに修復したままの状態を少なくとも2~3年は維持できる患者さんが少なからずみられるようになりました。

今後の展望についてはいかがですか。
本谷 聡先生

小腸病変をいかにコントロールするかが今後の大きな課題だと考えています。現在使用可能な抗TNFα抗体製剤などの薬物療法をさらにうまく使う方法を確立することで、それが可能なのか。あるいは、粘膜の再生をコンセプトとするような新たな治療法の開発が必要なのか。そういったところを見極めていく必要があるでしょう。

そこで当院では、臨床試験にも積極的に取り組んでおり、現在、IBDに関しては多くの治験にも参加しています。また、札幌医科大学第一内科と共同で、新規治療薬開発に向けた基礎研究プロジェクトも進行させています。このような研究活動から得られた新たな知見を、いち早く、患者さんに還元していきたいと考えています。

本谷先生から患者さんへのメッセージ 本谷 聡先生

抗TNFα抗体製剤の登場により、患者さん1人ひとりに応じた治療方針が細かくたてられるようになりました。それでも、すべての患者さんが成分栄養療法や手術療法を回避できるかと言えばそうではありませんが、かなりの患者さんが良好なQOL(Quality Of Life:生活の質)を得られるようになっています。

例えば、入院を繰り返し結婚や出産が夢のまた夢だった女性が、抗TNFα抗体製剤により、今では結婚して2児の母親になっています。また、腹痛や下痢といった症状、食事制限、度重なる入院などで最初に就職した職場を解雇されて以来、自分に自信が持てず、仕事をせず家に引きこもっていた男性も同様に、今ではバリバリ働いています。

有効な治療法はさらに開発されてきます。それをどう使うかの戦略も確立されてきます。だから、あなたの人生の目標をあきらめたりしなくても大丈夫です。むしろ、目標は高く持ち、前向きに過ごしてください。

(2007年3月現在)