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専門医インタビュー

クローン病に挑む

蘆田 知史先生
医療法人徳洲会 札幌東徳洲会病院
炎症性腸疾患(IBD)センター(北海道札幌市)
センター長蘆田 知史先生
根治できる時代となる近い将来まで、病状もQOL(生活の質)も悪化させないために、誰もがいつでもどこでも適切な治療を受けられるよう、クローン病診療の標準化に力を注いでいます。

【略歴】

1988年3月 旭川医科大学大学院修了
1988年7月 旭川医科大学 医学部附属病院 医員
1994年6月 旭川医科大学 医学部附属病院 助手
1997年5月 文部省長期在外研究員(Massachusetts General Hospital, Research fellow, Boston MA, USA) (~1998年3月)
2000年4月 旭川医科大学 医学部 内科学第三講座 助手
2003年4月 旭川医科大学 医学部附属病院 第三内科 講師
  (呼称変更により旭川医科大学病院 第三内科(消化器内科) 講師)
2007年9月 旭川医科大学 内科学講座 消化器・血液腫瘍制御内科学分野 准教授
2008年4月 医療法人徳洲会 札幌東徳洲会病院 IBDセンター センター長
2014年4月 医療法人徳洲会 札幌徳洲会病院 副院長・IBDセンター長

札幌市の北部、札幌丘珠空港近くにある札幌東徳洲会病院の炎症性腸疾患(IBD)センター長、蘆田先生にお話を伺いました。

●治療が受けやすい環境を整備したい

2008年4月、札幌東徳洲会病院に道内初となる炎症性腸疾患(IBD)センターが開設されました。その背景や目的を教えてください。
病院外観

クローン病などのIBDは、多くが夢や希望に満ち自分の可能性にどんどんチャレンジしていく10~20代の若い人に発症し、寛解と再燃を繰り返す慢性進行性の病気です。その診療にあたっては、病気だけでなく、患者さんの可能性(学業、仕事など)にも目を向け、将来への希望をあきらめることのないようにサポートしていくことがとても大切になります。

これまで私もそうでしたが、消化器内科の診療内でIBD患者さんの治療を行うとやはり時間的な制限があり、十分な診療が行えないのが現状かと思います。たとえば、消化器内科の日常診療では、上部消化管疾患やIBD以外の下部消化管疾患など幅広い疾患を治療しなければならず、ゆっくりと時間をかけじっくりとIBD患者さんの診察を行うことに限界がありました。

また、全国的にIBDを専門的に診られる医療機関が少ないため、病気の進行や治療の副作用などだけではなく、診察を受けるために学校や会社を休むなど、通院そのものが患者さんの可能性を狭めてしまうケースも少なくありません。

そこで、こうした状況を改善し、専門的で高度なIBD治療を行えるようにするために、IBDの治療・教育・研究を専門に行うIBDセンター(写真1)を開設しました。

IBDセンター IBDセンター

写真1:IBDセンター
消化器内視鏡センター横に開設された炎症性腸疾患(IBD)センター。診察室はIBDセンター専用で、本棚にはIBD関連の資料のみが並ぶ。

具体的に言うと、ひとつめの役割として、IBDセンターは消化器内科の診療枠とは別枠で、常にIBDの専門医が常駐し、IBD患者さんだけを診る治療環境を有する場であるということです。またもうひとつの役割としては、地域に対して、IBDの標準治療を提供できる治療環境を整備していくという活動の拠点となることです。

●IBD専門医を中心にチーム医療で患者さんをフォロー

IBDセンターの診療体制を教えてください。

IBDセンターには、私を含め現在3名のIBD専門の消化器内科医が専任で所属しており、月曜~金曜の9時~17時(午前診・午後診)に加え、土曜の9時~12時と平日の週2回17~19時半(夜診)に外来診療を行っているほか、患者さんの急変時などには、24時間・365日迅速に対応できるようにしています。

外来診療では、診療の待ち時間を利用して、クローン病患者さんには問診票を記入していただくとともに、現在の病状の目安となるクローン病活動指数(CDAI:Crohn's Disease Activity Index)や、クローン病患者さんの腹部症状・全身症状・情緒社会生活などさまざまな方面を総合的に反映し、日常生活の質(QOL:quality of life)を評価するIBDQ(Inflammatory bowel disease questionnaire)(写真2)を出していただいています。

IBDQ IBDQ

写真2:IBDQでクローン病患者さんの日常生活の質を評価
外来処置室内にあるパソコンで、IBDQを評価。患者さんはタッチパネル式で10項目の質問に答えていく。満点は70点、50点以下だと問題があると判断。蘆田先生は、「CDAIが高くなくても、IBDQが低い患者さんがおられ、この場合は何か問題を抱えているなと考え、診察にあたる」と話す。

そのため、診察は、これらの情報をもとに、患者さんの現在の状態をある程度、事前に把握した上で始められるため、診察時に直接患者さんに状態を説明いただいていた以前に比べるとはるかに的確かつスムーズに診察が進められるようになっています。

このように充実した診察体制でIBDセンターを運営できるのも実は、センターが開設される以前から、札幌東徳洲会病院にはIBD診療に必要な治療環境があったことによります。つまり、「困っている患者さんには手をさしのべる」という徳洲会の考えのもと、24時間・365日、病院が常に連携しチームとして稼働しているということです。

IBDでは、長い経過のなかで、手術を受けなければならない重篤な腸管合併症を起こすことがあります。腸管が狭くなる狭窄などに対する待機的手術のほかに、腸管に孔があく穿孔や、大量出血などの場合は緊急手術を行います。

そのような時に、昼夜を問わず、また土日・祝日に関係なく、血液検査やCT、MRIなどの検査を実施し、入院を受け付ける同院の診療体制は、患者さんにとって大きな安心に繋がると考えています。また、IBDセンターと消化器外科はしっかり連携しており、緊急手術も対応できることはもちろん、待機的手術も、手術決定後早い場合は2~3日で必要な検査を終えて実施しています。

そのため、クローン病と確定診断がついて入院した患者さんが、適切な治療を受けて症状を安定させて退院し、自宅に帰るまでの期間は、おおよそ2週間と極めて短期間で症状のコントロールをつけることも可能になっています。

さらに、手術前に内科と外科で合同カンファレンスを実施し最善の手術方法について話し合います。また、手術時にはIBDセンターの医師も立ち会い、術中内視鏡を実施するなどして消化器外科医をバックアップしています。

IBDセンターと看護師や管理栄養士、薬剤師、メディカルソーシャルワーカー(MSW)などのほかの専門職との連携も良好で、毎週1回、入院患者さんに関する多職種合同カンファレンスを開催しています。

何よりも、病院職員は医療の質向上に対するモチベーションが高く、IBDに対しても関心が強く、IBDセンターが主催するIBDの院内勉強会(原則、半年に1回。2010年度は4回実施)に積極的に参加するほか、各専門職がそれぞれの立場からIBDに関する研究を行い、その結果を自らの専門性の向上に活かしています。

たとえば、管理栄養士は、昨年度の研究でIBD患者さんの栄養摂取量を評価する方法を考案し、今年度の研究で、その評価方法に基づいてIBD患者さんに栄養指導を行い、その効果を検証しています。

●標準治療マニュアルを作成、まずは徳洲会グループで検証

では、地域において、IBDの標準治療を提供できる治療環境を整備していくために、どのような活動をされていますか。
蘆田 知史先生

地域の消化器内科医がIBDの標準治療を提供できる治療環境を整備するためには、まずIBDに関する治療の標準化を図る必要があり、それを具現化するツールとして、私の前勤務先の旭川医科大学時代のデータをもとに『IBD治療マニュアル』を作成しました。

IBDの治療に関して厚生労働省が出している治療指針は、治療選択薬の幅が広いため、一般の消化器内科医には少しわかりにくいものになっております。そこで、当院の『IBD治療マニュアル』では、臨床データに裏付けされた範囲で薬剤の投与量や投与期間、入院適応などを明確に示すなど選択肢の幅をできる限り狭め、誰が対応しても同じような治療が行えるようにしています。

現在、IBDセンターと徳洲会グループの消化器科のある病院では、『IBD治療マニュアル』にのっとった治療を展開しており、そこから得られた治療成績を分析して、『IBD治療マニュアル』のさらなるバージョンアップを図っています。

今後、IBDセンターを中心に、徳洲会グループの消化器内科医であれば誰もが『IBD治療マニュアル』を用いると、IBDの標準治療を提供できることを実証し、最終的にはそれを地域に応用していきたいと考えています。また、その地域の核となるIBDセンターを、徳洲会のグループ病院内にどんどん開設していきたいと考えています。

●クローン病の導入療法、維持療法とも抗TNFα抗体製剤が基本

『IBD治療マニュアル』にのっとった治療を展開されているとのことですが、クローン病での実際の治療状況と治療成績を教えてください。
蘆田 知史先生

旭川医科大学時代に蓄積したデータから、クローン病は確定診断後、早い時期から抗TNFα抗体製剤を使用して、すみやかに寛解に導き、その後も抗TNFα抗体製剤で維持療法を続けたほうが、再燃の少ない良好な経過が得られることが明らかになっています。

そこで、IBDセンターでは、クローン病で、栄養療法や5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤をはじめとしたすべての既存治療が無効ではないものの、活動期や瘻孔があり、症状が非常に重い、あるいは速効性のある治療が望まれる入院患者さんやステロイド治療を受けている患者さん、子どもの患者さんなどに対しても、抗TNFα抗体製剤を積極的に導入しています。

こうしたことから、とくに若いクローン病患者さんでは、早期から抗TNFα抗体製剤を使用していることが多く、実際、入院しているクローン病患者さんの約7割は抗TNFα抗体製剤を使用しています。そのような患者さんは退院後も抗TNFα抗体製剤を維持療法として使い続けますので、外来患者さんも、今では、ほぼ入院患者さんと同じぐらいの割合で抗TNFα抗体製剤を使用しています。

その結果、IBDセンターの約2年半のデータですが、抗TNFα抗体製剤を使用しているクローン病患者さんでは、2年以内に再入院してくる人の割合が10数%と、2割を切っています。一方、抗TNFα抗体製剤を使用していないクローン病患者さんでは、1年間で再入院する人の割合が35%と、4割近くにのぼります。

この差は非常に大きく、抗TNFα抗体製剤を使用していると、ほとんどの患者さんが少なくとも2年間入院せずに過ごせるということは、患者さんが若いだけにとてもメリットがあることだと感じています。

抗TNFα抗体製剤の使用にあたっては維持療法時期に8週毎に投与する必要がありますので、投与間隔が8週以上、絶対に空かないように注意しています。この点においても、同院の診療体制により救われることが多く、土日に抗TNFα抗体製剤の点滴を行うことも珍しくはありません。きちんとスケジュールに従い、投与し続けることが、この薬剤を長く安全に使用する上で重要と考えています。

また、抗TNFα抗体製剤の効果を確認するだけでなく、クローン病患者さんに、きっちりと点滴を受ける意識を持っていただけるよう、経過中は小腸MRI造影検査などの検査を定期的に実施し(抗TNFα抗体製剤導入3~6ヵ月目、以後、原則年1回)、病変の状態をチェックしています。

●難治クローン病にも新たな光を

最後に今後の展望をお聞かせください。

近年、クローン病の治療は大きく進歩し、前述したように多くの患者さんが病状をコントロールしながら、日常生活をおくれるようになっています。しかしながら、どのような治療でも効果が得られない難治のクローン病患者さんがいることも事実です。

現在、当院では難治のクローン病患者さんの治療法を開発するために、IBDセンターのスタッフの協力のもとに、細胞培養センター(CPC:Cell Processing Center)、いわゆる再生医療を提供する施設(2010年11月着工、2011年3月竣工予定)をつくっているところです。

CPCでは、まず循環器科と連携し、すでに高度先進医療として認められている末梢動脈閉塞症や虚血性心疾患、重症心不全に対する心血管再生医療を開始する予定をたてております。将来的には、IBD分野において、患者さん自身から採取した幹細胞を移植することで難治性の瘻孔を治すなどの新しい治療法を開発していきたいと考えています。

また、クローン病患者さんは若い方が多いので、IBDセンターでは、同院のメディカルソーシャルワーカー(MSW)、および北海道難病連やハローワークと連携し、医療の側面から、就業支援も行っていきたいと考えています。

蘆田先生から患者さんへのメッセージ蘆田 知史先生

クローン病などのIBDに関するこれまでの原因解明の研究の進み具合や、治療法の開発の発展具合などをみていますと、IBDはおそらく今後10年ぐらいで治せる病気になると信じています。

だから、患者さんには、治せるその日が来るまで、クローン病であることで不要に落ち込まず、未来に希望を持って、治療も、勉強も、仕事も、スポーツも…、何事にも一生懸命がんばって欲しいと思っています。

私たちも、治せるその日が来るまで、患者さんの身体と心を医療的側面から精一杯支えていきます。

このインタビューは2011年2月に行ったものです。 蘆田先生は、2014年4月より札幌徳洲会病院の副院長・IBDセンター長に就任されています。