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専門医インタビュー

クローン病に挑む

鈴木 康夫先生
東邦大学医療センター佐倉病院
内科学講座(千葉県佐倉市)
教授鈴木 康夫先生
治療法の進歩で病状のコントロールが可能に。今もこれからも夢に制限をかけたりしないで。

【略歴】
1981年滋賀医学大学卒業。同年、千葉大学医学部附属病院第二内科研修。国保松戸病院などを経て、87年にアイルランド共和国トリニティー大学へ留学。94年千葉大学医学部附属病院第二内科助手。96年千葉大学医学部附属病院光学医療診療部副部長兼務。03年東邦大学医学部附属佐倉病院内科助教授に就任。同院消化器センター副センター長兼務。04年同センター長兼務。06年より同院内科学講座消化器センター教授。

佐倉市志津のみどり豊かな丘陵にある佐倉病院の消化器センター長、鈴木先生にお話を伺いました。

●認知度が高まり、早い段階で専門医へ紹介

貴施設の患者さんの特徴を教えてください。
病院外観

以前は、専門医はおらず、クローン病がどのような病気なのか、スタッフは十分に理解していないことが多くありました。そのため、当院には、クローン病だと気付かれずあれこれ治療を試みられたものの、病状が悪化してこじれてしまったような患者さんが、少なからず紹介されてきました。

しかし、最近では当院がクローン病の専門病院であることに対する認知度は非常に高まっており、前述のようなケースはほとんどみられず、クローン病だと診断されてすぐの患者さんやクローン病だと疑われる患者さんが数多く紹介されてきます。

ただ、クローン病は早い段階(早期)イコール軽症というわけではありません。早期であっても重症の患者さんはいらっしゃいます。早期に紹介される患者さんが増えたことは、軽症の患者さんが増えたのではなく、重症でも以前のように病気をこじらせる段階以前の患者さんが増えたことを意味しています。

●今、最も有力な治療法から開始し、それを続ける

早い段階で紹介されるようになったことで、治療に対する考えは変わりましたか。

クローン病では、腸管に孔があく"穿孔"、腸管の内腔が細くなる"狭窄"、腸潰瘍が深くなり腸壁を越えて他の臓器や皮膚と交通する"瘻孔"といった複雑な腸管合併症や肛門病変(痔瘻、肛門周囲膿瘍など)などの腸管外合併症を生じることがあります。

これらの合併症は内科治療で解決することが難しく、外科治療が必要となることが少なくありません。また、一度生じると、二度、三度と繰り返すことが多く、そのたびに手術を行わざるを得ない患者さんもいらっしゃいます。

したがって、これらの合併症をまだ発症していない患者さんに対しては「将来にわたり、一度たりとも複雑な腸管合併症や肛門病変などで苦しまないように」と考え、また、これらの合併症をすでに発症している患者さんに対しては「合併症を早く改善し、その後の経過を良くしよう」と考え、これまで以上に"今、実施できる最も有効な治療を行う"ことを強く意識するようになりました。

そのような考えに基づき、どのような治療戦略をとられていますか。
鈴木 康夫先生

クローン病には、複雑な腸管合併症や肛門病変の再発を何度も繰り返し、治療に難渋するような"経過の激しいタイプ"と、複雑な腸管合併症を生じることがほとんどない、あるいは生じても一過性であるような"経過の穏やかなタイプ"があります。

いずれのタイプでも、治療の原則は「腸管に生じた炎症を抑えて症状を和らげ、かつ栄養状態を改善して、患者さんのQOLを高めること」です。

そのための治療法としては、比較的マイルドな抗炎症作用を持つ薬剤から治療を開始して、十分な治療効果が得られなければより強い抗炎症作用を持つ薬剤に移行して緩解導入をめざしていく「ステップアップ」と呼ばれる方法と、より強い抗炎症作用を持つ薬剤から治療を開始していち早く緩解(症状が落ち着いた状態)導入をめざす「トップダウン」と呼ばれる方法との二つがあります。

これまでは、どちらかというとステップアップ治療が主流でした。確かに"経過が穏やかなタイプ"であれば、ステップアップ治療でも患者さんのQOLを高めることは可能だと思います。しかし、"経過が激しいタイプ"にステップアップ治療を行っていると、緩解導入までの時間がかかり過ぎて、経過中に狭窄や瘻孔、痔瘻などの合併症を発症・進行させてしまう可能性があります。

残念ながら今の段階では、治療開始時点で、目の前にいらっしゃる患者さんのクローン病が"穏やかなタイプ"なのか"経過の激しいタイプ"なのかを見極めることはできません。そこで私は基本的に、現時点でクローン病に対して強力な治療法であることが実証されている抗TNFα抗体製剤から治療を開始し、いち早く緩解導入をめざすトップダウン治療を行っています。

●その後の経過をより良くできるように

抗TNFα抗体製剤により、患者さんにどのようなメリットがもたらされたと感じられていますか。

たとえば、瘻孔の外科治療のために入院を何度も繰り返していた患者さんが、抗TNFα抗体製剤による治療を開始してすぐに瘻孔の再発がまったくみられなくなり、その後も長期にわたって緩解状態が維持され、入院することなく病気になる前の普通の生活ができるようになったケースを経験しました。

このケースに限らず、抗TNFα抗体製剤が導入される以前の時代では、当時のベストの治療法でも病勢をうまくコントロールできず、再発・再燃・入退院を繰り返し、QOLが非常に損ねられていた患者さんが、抗TNFα抗体製剤に新たに出会うことにより、病気になる前の普通の生活を送れるようになった姿を多くみてきました。

私は、前述したいわゆる"経過の激しいタイプ"も、抗TNFα抗体製剤による緩解導入・緩解維持という治療戦略によって「その後の経過をより良くできるのではないか」と考えています。つまり、"経過の激しいタイプ"であっても、"経過の穏やかなタイプ"のような経過をたどれるようになるのではないかということです。

そこで私は、前述のように基本的には抗TNFα抗体製剤から治療を開始することにしていますが、特に炎症所見の強い場合、腸管皮膚瘻などすでに瘻孔を形成している場合、排膿の多い痔瘻など肛門病変が著しい場合の三つに加えて、若年者に対しても抗TNFα抗体製剤によるトップダウン治療を積極的に適応しています。若年者はその後の経過が非常に長いからこそ、それをより良いものにすることが重要で、ステップアップ治療では抗TNFα抗体製剤を使うタイミングが遅くなりその後の経過を悪化させる可能性があると考えているからです。

日常生活で注意すべきことはありますか。
鈴木 康夫先生

抗TNFα抗体製剤が登場する以前は、活動期、緩解導入期、緩解維持期いずれにおいても、厳格な栄養療法が治療の中心にありました。しかし、その厳格さは想像を絶するもので、それによってQOLが損ねられていたのも事実です。

幸い、抗TNFα抗体製剤が使用できるようになってからは、従来の厳格な栄養療法を行わなくてもよい患者さんが増えました。

とはいえ、患者さんだけでなく暴飲暴食はどのような人にも好ましいことではありません。そこで当院では、管理栄養士が中心となり、抗TNFα抗体製剤を投与している患者さんに対してもこれまでの厳格な栄養療法でなく、バランスのよい食事を心がけるなど効果的で負担の少ない食事療法について説明するようにしています。

そのほかに、禁煙で病勢が改善することが知られており、禁煙を勧めています。

鈴木先生から患者さんへのメッセージ 鈴木 康夫先生

クローン病と診断されると、「治らない難病」だとひどく落ち込まれる患者さんがいます。

確かにクローン病は現時点で完治させる根本的な治療法がなく、厚生労働省において難病指定されています。しかし、その意味は10年前とも5年前ともまったく違うものになっています。

なぜなら、治療法は日々進歩しており、現時点で最も有力な治療を行うことにより、かなりの患者さんが長期にわたり緩解を維持できるようになっているからです。

クローン病により寿命が短くなったり、日常生活(食事、運動など)や進路・就学、職業・就労、結婚、出産・育児などが制限されたりすることは基本的にありません。また抗TNFα抗体製剤の高い有効性が確認されて以来、それに続けとクローン病の病態の解明に基づく新たな治療薬の開発が精力的に進められています。

クローン病の未来はどんどん明るくなっていますので、どうか今も、これからも、あなたの"夢"に制限をかけたりしないでください。

(2007年3月現在)