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専門医インタビュー

もっと知りたい!クローン病外科治療 -肛門編-

質の高い社会生活を送るという治療目標にむけて、必要と考えられる外科治療をタイミングを逃さず受けてください。
その後の治療は、肛門病変を含め、できる限り再発を抑制するよう内科的・外科的視点から検討します。

杉田昭先生

横浜市立市民病院 外科
(神奈川県横浜市)

部長 杉田 昭先生

【略歴】

1979年横浜市立大学医学部卒業。横須賀市立市民病院、横須賀共済病院を経て、87年に米国マウントサイナイ病院へ留学。帰国後は国立横浜病院、横浜市大市民総合医療センターを経て04年より現職。10年より横浜市立市民病院 副病院長に就任、現在に至る。

クローン病の痔瘻に対して、日本で初めてシートン法を適用したことで知られる横浜市立市民病院。現在、同病院のクローン病診療において中心的役割を果たしておられる横浜市立市民病院外科部長 炎症性腸疾患科科長の杉田昭先生にお話を伺いました。

治療方針は"患者さんが質の高い社会生活を送れるような治療法を選ぶ"です。
横浜市立市民病院炎症性腸疾患科ではどのようにクローン病を診療されていますか。
横浜市立市民病院

当科のクローン病の治療方針は、"目の前の患者さんが質の高い社会生活を送れるように最も適切な治療法を選び、実践する"ことです。

クローン病の治療において再発を完全に抑制することは現在困難です。原則として適切と考えられる内科的治療を行います。患者さんによっては、内科的治療で病勢が抑えられず、質の高い社会生活を送るには外科治療が必要です。その時は、患者さんにきちんと説明し納得していただいた上で、外科的治療を受けていただくようにしています。

肛門病変の治療を行う時は、必ず大腸病変の治療も併せて実施します。
では、クローン病の肛門病変の治療はどのようにされていますか。

クローン病の肛門病変は、大きく3つのタイプに分類されます。(①腸に潰瘍ができるのと同じように肛門管に潰瘍ができる「一次性病変」、②一次性病変に細菌感染などが重なって起きる「二次性病変」、③クローン病の患者さんにたまたまできた「通常の肛門病変」。)(表1)

表1:クローン病に合併する直腸肛門病変
一次性病変
(クローン病自体の病変)
二次性病変
(一次病変に感染などが加わり生じる病変)
通常の肛門病変
cavitating ulcer
裂肛
aggressive ulceration
ulcerated edematous pile
skin tags
肛門
直腸狭窄
肛門周囲膿瘍
痔瘻
肛門膣瘻
直腸膣瘻、癌
piles
肛門周囲膿瘍
痔瘻
skin tags
cryptitis

診療にあたっては、まず患者さんから症状を詳しくお聞きし、肛門の状態をみて、指で病変を確認し、さらに、可能であれば肛門鏡検査なども実施して『どのタイプの肛門病変なのか』を見極めます。その上で、タイプに応じて最適な治療法を選択します。

「一次性病変」はクローン病自体の潰瘍が肛門にできた病変ですので、クローン病の大腸病変(腸の症状)に対する治療と同じような内科的治療を行います。一方、一次性病変から波及してできた「二次性病変」の場合は、難治性であることが多いため、一次性病変に対する治療に加えて特殊な治療が必要となります。「通常の肛門病変」の場合は、いわばクローン病と直接関わりがない肛門病変ですので、クローン病でない患者さんの肛門病変と同様の治療を行います。

肛門病変の治療を進める上で、留意しておくべき大事な点があります。それは、クローン病の大腸病変がしっかりと治療できていなければ、肛門病変の治療もうまくいかないということです。大腸病変による下痢などの症状が残存すると、その影響を受けて、肛門病変が悪化することがあります。したがって、肛門病変の治療を行う際には、必ず大腸病変の治療を行いながら、両方の症状を並行して治療することが大事なのです。

クローン病で最も多い肛門病変は「二次性病変」の痔瘻。治療に難渋するケースであっても、シートン法による治療が高い効果を示します。シートン法後の抗TNFα抗体製剤も選択肢の一つ。
特殊な治療が必要という「二次性病変」の治療はどのようにされていますか。
杉田昭先生

クローン病に合併する肛門病変のなかで、最も頻度が高いのは「二次性病変」で痔瘻が最も多くを占めます。当院で収集したデータによると、肛門病変の約半数近くが痔瘻であり、そのうち約7割は難治性です。

こういった痔瘻に対する治療方針についてご説明します。まず、痔瘻のなかでも、瘻孔(ろうこう)から膿がでていない場合や、腫れが認められない場合であれば、抗菌剤の内服薬で治療を行います。瘻孔から膿が出てなかなか治らない場合や、腫れが認められる場合にはシートン法を行います。

シートン法を簡単にご説明します。まず痔瘻の中に溜まっている膿をいったんきれいに取り除いた後、シートンと呼ばれるチューブ、ドレーンなどを輪をつくるように痔瘻病変の瘻孔に通し、そのまま留置しておくことにより、瘻孔が塞がらないようにして膿を持続的に出す治療法です。シートンの周囲を通って膿が持続的に排出されることで、感染が改善して良好な肉芽が生じ痔瘻を治療する方法です(図1)。当科では病状が改善すればシートンを全て抜去する方針としています。シートン法のメリットは幾つかありますが、低侵襲であること、入院期間が短い(平均4~5日)ことなどが挙げられます。これらに加えて、切開を伴う一般的な痔瘻の外科手術に比べると、肛門周囲の筋肉を切断しないで済むため、手術後の便漏れなどの後遺症がない、というメリットも患者さんにとって大きいと言えます。

図1:痔瘻に対するシートン法(non-cutting, drainage seton)の原理
①一次性病変や二次口から、瘻管の中にたまった膿をきれいに取り除く。
②その後、チューブ、ドレーンなどのシートンを一次性病変と二次口、二次口と二次口の間に通して輪をつくり、瘻孔が塞がらないようにして膿を持続的に出し続けることにより痔瘻を治療する。
図1:痔瘻に対するシートン法(non-cutting, drainage seton)の原理

クローン病の肛門病変は、一般的な痔瘻とは異なり、痔瘻が複雑に枝分かれしたトンネルを形成して、感染も広範囲におよぶことが多いのです。当科では複数本、留置したシートンを徐々に抜いていくことで、複雑な痔瘻の病変を単純化し、最終的に瘻孔の自然閉塞を促す方法を原則としています。この方法は、シートン法のなかでもnon-cutting, drainage setonと呼ばれる方法です。

当科では通常、平均4本のシートンを最短3ヵ月間入れた状態で経過をみます。その後、病変の改善によって徐々にシートンを抜去していきます。手術直後は痛みを伴う場合もあり、鎮痛剤を処方することもあります。手術直後は膿で下着が汚れないようにガーゼをあてておく必要があります。しかし、痛みや膿は徐々に減っていき、社会生活に差しつかえがないようになっていきます。

シートン法はクローン病の病変に対する根治手術ではないこと、痔瘻が再発する可能性があることなども考慮し、シートンを1本だけは残しておくと言う先生もおられます。しかし当科では痔瘻が改善すれば原則としてすべてのシートンを抜去することにしています。

実際、当院の前院長である福島恒男先生が、日本で初めてクローン病患者さんの難治性痔瘻に対してnon–cutting, drainage setonによる治療を試みて以来、多くの患者さんにこの治療法を行ってきましたが、全体の70~80%の患者さんで、すべてのシートンを抜くことができております。しかし、長期経過中には再発や人工肛門造設術が必要になる患者さんもおられます。

クローン病の痔瘻に対して薬物療法を行い、シートン法を行っても、十分な効果が得られない場合はどのような治療を行っておられますか。

シートン法を実施した上で、抗TNFα抗体製剤の使用も検討します。抗TNFα抗体製剤は肛門病変の改善が期待できるだけでなく、肛門病変の難治化を引き起こす大腸の炎症も改善させる効果が期待できます。また、いろいろな治療を行っても十分な効果が得られない場合には、人工肛門造設術を行うことにしています。

質の高い社会生活を送る目的で、人工肛門造設術を行う場合もあります。
人工肛門の管理はWOC看護認定看護師とともに行い、再発予防やその対処には内科・外科両面から支援します。
人工肛門造設術も質の高い社会生活を送るための選択肢になるのですか。
杉田昭先生

現在、可能なあらゆる治療法を行っても十分改善しない病変もあり、こういった病変に悩む患者さんにはQOL(社会生活の質)の低い時間をいつまでも過ごしていただくことのないように人工肛門造設術をお勧めしています。具体的には、瘻孔や膿瘍が広範囲にわたっており、シートン法を試みたとしても効果が得られないと考えられる患者さんや、肛門狭窄が高度であり通過障害のある患者さん、直腸から直接瘻孔が出ているような患者さん、肛門管癌や痔瘻癌を合併している患者さんの場合などには、人工肛門造設術が必要であるということをご説明して理解していただくようにしています。

人工肛門の管理は大変ではないでしょうか。

はじめは、容易なことではないと思います。しかし、人工肛門の管理については専門のWOC(創傷・オストミー・失禁)看護認定看護師が十分なサポートを行っております。こういったこともご説明した上で、人工肛門造設術後が必要な患者さんには、前向きに手術を受けていただくことをお勧めしています。手術を受けていただくことで術前よりもQOLは上がると考えます。

最後に、今後の治療の展望についてお聞かせください。

クローン病の長い経過のある患者さんのうち、直腸や肛門管の病変で長期にわたり症状に悩んでおられる患者さんに最近問題となっているのは、肛門管癌、痔瘻癌の発症が徐々に増えていることです。もちろん、これらの癌の患者さんは全体からみれば多くはありません。

肛門管癌や痔瘻癌による症状(血便、腸狭窄など)は、クローン病の肛門病変の症状と非常に似通っていることが多く、クローン病患者さんも主治医も癌の存在を疑うことが少ないため、病気がかなり進行した段階になってようやく発見されることがあり注意が必要です。

今後は、患者さんに対していつもよりも出血や粘液が多く出る、便が出にくいなどの症状に変化がみられる時は必ず医師に伝えること、医師はそうした場合に癌を念頭において、生検を行うなど積極的に検査することといった情報を広く普及していきたいと考えています。

患者さんへのメッセージ

杉田昭先生

クローン病の治療の目的は社会復帰し、質の高い社会生活を送っていただくことと思います。その目的を果たすために、私たち医師は患者さんの日常生活に支障をおよぼしている病変に対してどのような治療が必要なのかを見極める必要があります。

その時、内科治療では十分に効果が期待できず、外科治療が必要だと結論されることもあります。確かに手術は多少のリスクを伴う場合はありますし、外科治療後にも再発する可能性があります。しかし、手術が必要な時に外科治療を受けないことは生活の質の向上にはつながらないと思います。

外科治療が必要な時には患者さんには治療の目的とは何かを十分に理解していただいた上で、前向きに外科治療を受けていただきたいと考えています。

現在では抗TNFα抗体製剤などの優れた薬剤の登場により、内科治療は飛躍的に進歩しています。外科治療後は肛門病変を含めて再発を抑制する治療法を内科、外科の両面から十分に検討し、患者さんを支えていきます。とくに肛門病変は外科医でないとわからないことが少なからずあります。外科治療後は内科のみでフォローアップされることもあるようですが、半年~1年に1度、ぜひ、外科も受診していただきたいと思います。

(2010年12月現在)