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専門医インタビュー

もっと知りたい!クローン病外科治療 -肛門編-

肛門に何らかの症状があるならば、そのままにせず、必ずわれわれ医師に訴えてください。放置しておくと、人工肛門になるなど、QOL(生活の質)が大きく低下する可能性もあります。
ひとりぼっちで落ちこまないで、何でも話してください。

二見 喜太郎先生

福岡大学筑紫病院 外科
福岡県筑紫野市

診療教授 二見 喜太郎先生

【略歴】

1978年 3月   福岡大学医学部卒業
  6月   福岡大学第一外科 研修医
1982年 6月   福岡大学第一病理 医員
1984年 10月   福岡大学第一外科 助手
1985年 6月   福岡大学筑紫病院外科 助手
1989年 11月   医学博士取得
1990年 4月   福岡大学筑紫病院外科 講師
1993年 10月   福岡大学筑紫病院外科 准教授(旧称 助教授)
2003年 12月   福岡大学筑紫病院救急部 部長
2004年 10月   福岡大学筑紫病院 臨床研修医管理委員会 委員長
2005年 10月   福岡大学筑紫病院手術部 部長
2011年 10月   福岡大学筑紫病院外科 診療教授 現在に至る

【指導医・認定医等】

日本外科学会専門医/指導医
日本消化器外科学会専門医/指導医
日本大腸肛門病学会専門医/指導医
日本がん治療認定医機構暫定教育医
日本がん治療学会認定医
消化器がん外科治療認定医

【評議員】

日本大腸肛門病学会
九州外科学会
日本消化器病学会九州支部
日本大腸肛門病学会九州地方会

【所属学会】

日本外科学会、日本消化器外科学会、日本消化器病学会、日本臨床外科学会、日本大腸肛門病学会、日本癌治療学会、日本腹部救急学会、日本消化器内視鏡学会、日本食道学会、日本胃癌学会、日本乳癌学会、日本ストーマリハビリテーション学会、日本暖和医療学会 など

【その他】

厚生労働省「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」研究班研究協力者
厚生労働省「原因不明小腸潰瘍症の実態把握、疾患概念、疫学、治療体系の確立に関する研究」研究班研究協力者
日本炎症性腸疾患研究会理事
IBD Surgical Forum代表世話人
バイオ治療法研究会世話人

外科治療を必要とするあらゆる疾患に対応するなかで、消化器内科と密に連携しながらクローン病をはじめとする炎症性腸疾患にも積極的に取り組んでいる福岡大学筑紫病院外科。現在、同科でクローン病診療において中心的役割を果たしておられる診療教授の二見喜太郎先生から、クローン病肛門病変への外科治療の実際についてのお話を伺いました。

治療方針は消化器内科と一緒に検討。肛門病変はすべて外科で対応。
クローン病の診療体制について教えてください。
福岡大学筑紫病院

クローン病は本来外科的な病気ではないので、内科治療が優先されます。当院でも患者さんは、多くの場合まず消化器内科に紹介受診されます。手術目的の紹介の場合でも患者さんの意思を確認して、外科医と消化器内科医が一緒に治療方針を検討し、手術の適否を判断します。術後は消化器内科あるいは他院(紹介医)にて内科的な維持療法を行いフォローアップします。

さて、クローン病は肛門部に瘻孔(ろうこう)など、さまざまな病変を伴うことが多い疾患です。消化器内科に紹介されて来られた患者さんも、基本的には症状がなくても外科で肛門を診させていただきます。手術の有無に関わらずこの段階で病変があれば、肛門に関しては外科がフォローアップします。また、この時点だけの判断ではなくて、長い病歴のなかでの肛門部の症状および治療の有無を知ることが肛門病変を診断する上では大事になってきます。

クローン病の患者さんでは、(診断時点で)症状のない患者さんまで含めると約8割に肛門病変がみられます。このなかで症状があるのは50~60%ぐらいです。また、われわれのデータでは、症状がない患者さんも含めて10年以上経過をみていますと肛門病変、とくに瘻孔・膿瘍が増えていきます。

肛門病変で最も高頻度にみられる瘻孔・膿瘍。腸管病変も評価した上で、瘻孔の位置、瘻管(ろうかん)の走行をしっかり診断し、肛門機能まで含めた長期経過を考慮した治療戦略を立てる。
クローン病の肛門病変の特徴を教えてください。

クローン病患者さんで最も頻度の高い肛門病変は瘻孔・膿瘍で(表1)、通常の瘻孔に比べ、二次口(腸管側でなく肛門周囲の瘻孔出口)が前壁側に多く、肛門から離れて広範囲にわたって多発し(多発複雑瘻孔)、ほかの病変(裂肛、皮垂など)が混在するという特徴があります。また、クローン病では、腸管病変に先行して肛門病変が認められること(肛門病変先行例)(表1)があり、10~20代の若年者の肛門病変はクローン病の早期診断の1つの手がかりになっています。

参考)「クローンフロンティア」クローン病とその症状
http://www.remicare-cd.jp/crohn/outline/symptom/coexisting.html

表1:自験例におけるクローン病肛門病変(%)
I.頻度:
410/498例 (82.3)
男性 286/347(81.7)・女性 127/151(84.1)
小腸型 115/163(70.6)・小腸大腸型 233/266(87.6)・大腸型 62/69(89.9)
II.肛門病変先行例:
181/498例 (36.3)
瘻孔 115・膿瘍 54・裂肛 12・皮垂 2・痔核 1
小腸型 52/163(31.9)・小腸大腸型 102/266(38.3)・大腸型 27/69(39.1)
III. 肛門病変の内訳 瘻孔・膿瘍 318(63.9)
皮垂 138(27.7)
裂肛・潰瘍 132(26.5)
肛門狭窄 76(15.3)
肥厚性肛門乳頭 65(13.1)
痔核 16(3.2)
直腸肛門癌 4(0.8)
※病変の混在:
 240/410(58.5)
IBD reseach 4(2):26-32,2010 の表2
クローン病の肛門病変の診療で心がけていることは何ですか。
二見 喜太郎先生

問診、視診・触診、直腸指診、肛門鏡検査などの局所検査に加えて画像検査などを活用し、腸管病変を含めて肛門病変を正確に診断することです。まずは問診です。患者さんが他者に肛門病変を訴えづらいことを考慮し、世間話なども交えて患者さんの気持ちをほぐしつつ、クローン病一般の話の流れのなかで肛門の状態についてさりげなく聞くようにしています。気持ちがほぐれたところで肛門病変を診断・治療することの重要性、すなわち肛門病変を放置しておくと再発を繰り返し若いうちに人工肛門になる可能性があり、それを防ぐためには早めに経験のある外科医や肛門科医に診療してもらうことがとても大切であることを説明します。

視診・触診、直腸指診はとても大切な検査になりますので、強い痛みなどで外来での診察が難しい場合には麻酔をかけて肛門をしっかり診るようにしています。こうすることにより外来診察では確認できなかった病変も確認できます。また処置とともに組織検査も行います。経過の長いクローン病患者さんには肛門部に癌のリスクもありますので、癌の鑑別のためには組織検査は必須と考えています。

MRI、CT、注腸造影などの画像検査では、肛門病変のみならず腸管病変を含めて、クローン病の全体像をしっかり捉えるようにしています。クローン病の病態として、腸管病変と肛門病変はあまり関連していません(腸管病変が重症であれば、肛門病変も重症であるというわけではない)。基本的には腸管病変は腸管病変、肛門病変は肛門病変と別々に考えます。ただし、腸管のなかでも大腸、とくにS状結腸より肛門側に病変があると下痢が増えるため肛門の負担が大きくなり、肛門病変が悪化することがあります。つまりそのような場合は腸管病変をしっかり管理して下痢を是正しなければ、肛門病変はいくら治療しても良くなりません。肛門病変の診断、治療においても、腸管病変の有無とそれがどこにあるのかをきちんと探し出すことが大切になるのです。

また、前述したようにクローン病の瘻孔・膿瘍は、男性であれば陰嚢に、女性であれば外陰唇や膣にあったり、膿瘍が直腸周囲まで達するほど深いところにあったりと、肛門から離れて広範囲にわたって多発するため、そのことを念頭に置き、MRIやCTにより瘻孔の位置や瘻管の走行を確実に把握するようにしています。

一連の診療のなかで何よりも心がけていることは、クローン病が今のところ原因不明で根本治療のない病気であることから、長期経過・予後を考えた上で、将来の肛門機能を維持するためにも、とくに10~20代の若年者に対しては、肛門に侵襲の高い外科治療は控えるようにしていることです。また、クローン病の患者さんはいわゆる生産年齢層の方が多いので、休学・休職することなく外来でできる治療を第一選択にしています。

肛門機能の温存が何よりも大切。クローン病に伴う瘻孔には、シートン法ドレナージが第一選択。
クローン病の瘻孔に対する治療の実際を教えてください。

単純な瘻孔や二次口が複数ある複雑瘻孔でも、症状が軽度であれば切開・排膿のみで寛解することもありますが、クローン病の瘻孔にはシートン法ドレナージが有用です。シートン法ドレナージとは、肛門管内の一次口(細菌の入口)を探し出し、そこと二次口(膿の出口)の間にシートン(ナイロン糸、ペンローズなど)を通して結び合わせ、長期にわたって膿を排出する(ドレナージ)ことで、瘻孔部の炎症を軽減、症状を改善させるものです。クローン病に多い複雑多発瘻孔には複数のシートンを留置します。

シートン法ドレナージは完治は望めませんが、症状を軽くする効果とともに括約筋に損傷を加えないため、肛門機能が温存されるという利点(表2)があります。シートン留置後、8~9割の患者さんは疼痛なく、膿も最初の数日間から長くて1週間くらいは多く排出されますが、以後は薄いガーゼを1枚あてる程度で十分対応できるぐらいに減ってきます。また、そのままお風呂に入って構わないなど日常生活で支障になることはほとんどなく、外来でフォローアップできます。

表2:クローン病瘻孔・膿瘍に対するシートン法ドレナージ
効果 ・長期にわたるドレナージによる感染巣の除去
・瘻管内の肉芽形成促進
・多発・複雑瘻孔の単純化、短縮化
利点 ・括約筋損傷が軽微
・失禁、狭窄などの術後障害が少ない
・疼痛は軽微でドレナージのまま社会復帰
問題点 ・長期間のドレナージが必要
・完治は難しい
消化器病セミナー94:127-137,2004 の表3

かつてはクローン病の瘻孔に対しても通常の痔瘻と同様の根治術(痔瘻をすべて除去する手術)が行われることが多かったのですが、この方法は、括約筋が障害されるため将来的に便漏れが生じる可能性があるほか、クローン病の肛門病変は再発する可能性が高く、大腸(とくにS状結腸より肛門側)病変の影響で引き起こる下痢で悪化することも少なくありません。そこで、現在クローン病の瘻孔に対してはシートン法ドレナージが第一選択となっており、再発の場合は再度のシートン法を繰り返すことが一般的です。

肛門病変や、腸管(とくにS字結腸より肛門側)病変による下痢の改善をめざして抗TNFα抗体製剤を試みることも。
シートン法ドレナージだけで症状を改善させるには、かなりの時間を要するのではないでしょうか。
二見 喜太郎先生

ご指摘の通り炎症の軽減が得られれば、順次シートンを抜去していきますが、すべてのシートンを抜去するまでに数ヵ月から1年、長ければ3年ぐらいかかることがあります。

そこで当科では、シートン法ドレナージに加え、抗TNFα抗体製剤を試みています。とくに前述した下痢を生じやすいS状結腸より肛門側に腸管病変を有する場合には、肛門病変だけでなく腸管病変による下痢の改善効果(結果として肛門病変にも良い影響を与える)も期待して、抗TNFα抗体製剤を使用するようにしています。

通常、シートン留置術3~4日後ぐらいから、感染症の兆候などがないことを確認した上で抗TNFα抗体製剤の投与を開始します。そうしますと、シートン法ドレナージのみの時に比べ、患者さんから「おしりが軽くなった」などと喜びの声が聞かれたり、実際に排膿の量が少なくなったり、シートンを抜去するまで、あるいは瘻孔が閉鎖するまでの期間が短くなったりすることも経験しています。

腸管病変に対してすでに抗TNFα抗体製剤を投与されている患者さんはどのようにされますか。

そのような患者さんでは、腸管病変だけでなく肛門病変への効果も期待しつつ、抗TNFα抗体製剤を継続したまま、シートン法ドレナージを追加します。実は、抗TNFα抗体製剤が登場してからシートン法ドレナージが必要となる瘻孔の患者さんが随分減っているように感じています。

最後に、今後の課題をお聞かせください。

肛門病変を繰り返すと軽快したところの粘膜が盛り上がってきて(瘢痕化)、肛門が狭くなってきます(狭窄)。クローン病では、歯状線(直腸と肛門の境界線)の領域に限局して狭窄(輪状狭窄)を生じることが多いのですが、この場合は金属ブジーなどを用いた肛門からの拡張が有用で、外来では用指的ブジー(指で狭窄部分を拡張する)を実施し、再狭窄を防ぎます。しかし、狭窄が直腸の広範囲におよぶ長い線維性の狭窄には、用指的あるいは金属ブジーによる拡張術の効果は得られなくなりますので、直腸切断術・人工肛門造設術を行わざるを得ません。

肛門病変の10年以上の経過をみますと、3割は1回のシートン法ドレナージで軽快しますが、3割は再発を繰り返し重症化して直腸切断術・人工肛門造設術に至り、残りの4割がその中間といった具合です。また、クローン病患者さんはおおむね20年で25%が肛門病変あるいは腸管病変が原因となって、一時的なケースも含めて人工肛門造設術を受けています。肛門病変を管理することは人工肛門の予防にもつながることになります。

もう一つ重要なことは肛門部の癌合併です。クローン病でも経過が長くなると癌合併のリスクが高くなり、肛門部に好発します。早期診断を導く方法が議論されていますが、CTやMRIでは早期診断は難しく、組織学的検査が必要となります。私たちが麻酔をかけて肛門部の診察を行うのは、積極的に生検ができることも理由の一つで、同時に内視鏡検査を行うようにもしています。何より大切なことは症状がなくても定期的に肛門部の診察を受けることです。経験ある外科医、肛門科医であれば外来の診察でもある程度の鑑別はできると思っています。

クローン病の診断・治療は大きく進歩していますが、前述したように肛門病変が重症化して身体的にシビアな制限を受ける患者さんが一定の割合でいらっしゃいます。今後はこのような患者さんに対して、その時点で実施可能な内科的・外科的治療法をどのように組み合わせればその患者さんにとってより良い結果が得られるのかといった治療戦略を確立したいと思っています。また、重症化に関わる因子を調査し、予防対策も考えていかねばなりません。

とくに抗TNFα抗体製剤のように腸管病変を含めて再発を防ぐことが期待できる治療薬が登場した今は、これまで以上に手術のタイミングが重要になってきていると感じています。外科、消化器内科、病理部の連携が非常に良い当院において、私は外科医として長期的な治療戦略における外科治療の位置づけ、ひいてはより効果的な手術のタイミングをテーマにしてより良いクローン病の治療をめざしたいと考えています。

患者さんへのメッセージ

二見 喜太郎先生

現在外科医の間では、腸管にしろ肛門にしろ手術をするにあたっては侵襲が少ない方法で広範囲に切除せず腸管をなるべく残す、肛門機能を温存するという考え方で統一されてきています。術後の再発を予防する効果が期待できる薬剤もいろいろと開発されてきており、クローン病治療は今後さらなる進歩がまだまだ期待できます。

だからこそ、私たち医師に何でも相談してください。また、入院などをきっかけに患者さん同士でコミュニケーションをとり「自分ひとりじゃないんだ」ということを知るとともに、どんどん情報を交換してください。ひとりぼっちで考え込まないでください。応援団はいくらでもいるのですから。

(2014年7月現在)