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専門医インタビュー

もっと知りたい!クローン病外科治療 -腸管編-

同世代が"若さ"を謳歌している時の入院・手術はとても辛いことです。しかし、その負担は低侵襲な術式や術後再発を抑制する治療薬の開発により、かなり軽減されました。然るべき時には、前向きな気持ちで手術を受けてください。

根津理一郎先生

西宮市立中央病院
(兵庫県西宮市)

院長 根津 理一郎先生

【略歴】

1978年 3月   大阪大学医学部医学科卒業
  7月   大阪大学医学部付属病院 医員(研修医)
1979年 7月   大阪労災病院 外科医員
1983年 1月   大阪大学医学部付属病院 シニア非常勤医員(小児外科)
1989年 3月   米国オハイオ州クリーブランド・クリニック 留学
1990年 4月   大阪大学医学部 助手(第一外科)
1997年 4月   大阪大学医学部 講師(第一外科)
1998年 2月   英国バーミンガム大学 クイーン・エリザベス病院外科 出張
  5月   日生病院 外科部長
2002年 5月   大阪労災病院 外科部長
2013年 4月   西宮市立中央病院 院長 現在に至る

【所属学会】

日本外科学会専門医/指導医、日本消化器外科学会専門医/指導医、日本大腸肛門病学会評議員/専門医/指導医、日本外科代謝栄養学会評議員、日本静脈経腸栄養学会評議員、日本臨床外科学会評議員、日本消化器病学会、日本内視鏡外科学会、日本癌治療学会、日本胃癌学会、日本乳癌学会 など

入院や手術に伴う患者さんの身体的、精神的負担の軽減をめざし、低侵襲の腹腔鏡補助下手術(ふくくうきょうほじょかしゅじゅつ)に積極的に取り組む西宮市立中央病院 院長の根津理一郎先生にお話を伺いました。

難治性疾患であるクローン病の診療には、内科医と外科医の連携が重要
クローン病の診療体制を教えてください。

クローン病は、長い経過のなかで複数回の手術が必要となる患者さんも多く、身体的、精神的負担の大きい原因不明の難治性疾患です。クローン病における手術の目的は、「症状の原因となる責任病変(狭窄、瘻孔など)を取り除き(リセット)、患者さんのQOL(生活の質)を改善すると共に、再び内科的治療が奏効する状態に戻すこと」であり、また、これが外科医の立ち位置でもあると考えています。

つまり、クローン病は内科医と外科医が協力して、立ち向かう必要がある病気であり、当科では、院内外を問わず内科医と連携を図ってクローン病の診療を行っています。

当科の患者さんの多くは、クローン病治療に詳しい内科医から手術目的で紹介されてきており、すでに内科医から手術の必要性について、十分な説明を受け、理解されています。そのため、当科では手術適応の決定や手術の必要性を患者さんに説明するというよりは、具体的な手術の内容を説明した上で、患者さんの希望を考慮して手術時期を決定することを中心としています。

手術時期はどのように決められるのですか。

クローン病の手術適応は、"絶対的適応"と"相対的適応"に分けられます。緊急手術が必要な合併症(腸閉塞、穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症)に対する手術や癌合併などの"絶対的適応"は5%程度であり、ほとんどの手術は "相対的適応"であるため、患者さんの手術時期は、ある程度患者さんの希望を考慮することができます。

例えば、「大学受験を間近にひかえている」、「就職したばかりで休みにくい」、「今、会社を休むとクビになる」など、患者さんの人生計画のなかで、今一番大切なことを聞き取ります。その上で、患者さんに手術を延ばすことによるデメリットがあればきちんと理解していただき、患者さんと一緒に手術の時期を決定しています。

手術後は、内科医がフォローアップするのでしょうか。

一般に、術後は内科のみでフォローアップされ、また外科治療が必要になれば外科に紹介されるケースが多いと思います。当科でも、抗TNFα抗体療法をはじめとした薬物療法や栄養療法、生活指導(食事指導、禁煙ほか)などによる基本的なフォローアップは、内科にお願いしています。

しかし、再発予防を徹底し、手術の繰り返しを防ぐためには、内科医が診察に慣れていない肛門病変を含め、吻合部(切除した腸と腸を繋ぎ合わせた部位)から再発しやすいことなどを念頭におき、外科的観点からも術後経過を注意深く観察する必要があります。

当科では、手術を受けられた患者さんに対して、「外科治療の必要性の有無に関わらず定期的に受診すること」を推奨しています。例えば、当院内科で抗TNFα抗体療法を受けている患者さんはその実施日ごとに、他施設の内科でフォローアップされている患者さんは3~6ヵ月ごとに、当科を受診していただいています。

術後の再発を予防し、繰り返す手術を回避するために抗TNFα抗体療法を実施
手術でいったんリセットした後は、内科と外科で再発予防に全力を尽くすということですね。
根津理一郎先生

そうですね。クローン病患者さんの多くは10代~30代の若い世代です。同世代の人は、勉強やクラブ活動、仕事や趣味で充実した毎日をおくっており、本来なら入院が必要な年齢ではありません。しかし、その充実した毎日をおくるべき時期に入院し、しかも手術を受けることは、患者さんに大きな苦痛を与えていると思います。可能であれば、入院や手術を1回で終わらせたい。そのためには、内科医と外科医が連携して、術後の再発予防に全力を尽くさなければならないと考えています。

抗TNFα抗体製剤の登場により、以前に比べると術後の再発をかなり予防できるようになりました。最近では、「術後の早い時期から抗TNFα抗体製剤を用いた治療を行い、術後の再発を抑える」という戦略をとる内科医が増えています。

実際、当院では、過去に手術の既往歴があるような再発リスクが高い患者さんに対しては、術後早期(約2週間後)から感染症の兆候が認められないことを確認した上で、抗TNFα抗体療法を開始することが主流になっています。

患者さんへの身体的負担を軽減する低浸襲の腹腔鏡補助下手術を実践
術後の再発予防に力を入れるとともに、外科医として、手術による身体的な負担を減らすために、低侵襲な手術が試みられていると聞いています。
根津理一郎先生

はい。当科では、低侵襲なアプローチとして腹腔鏡補助下手術に積極的に取り組んでいます。腹腔鏡補助下手術は、クローン病においても、開腹手術と同レベルの成績で実施が可能となり、新しい標準術式の1つとなってきています。

当科では、私の出身である大阪大学第一外科が、日本に腹腔鏡補助下手術を導入した当初から取り組んでいたこともあり、1996年5月よりクローン病に対しても腹腔鏡補助下手術を試みています。現在、手術適応例の約半数(112例)がHALSを含む腹腔鏡補助下手術です(表1)

表1:クローン病腸管合併症に対する手術適応(1996年5月~2007年5月)
  腹腔鏡補助下手術 HALS 開腹手術
穿孔型
内瘻(N=44) 14(5) 5(1) 25(9)
外瘻(N=15) 2(1) 13(11)
膿瘍(N=14) 2(0) 12(1)
穿孔(N=5) 5(0)
非穿孔型
狭窄(N=116) 66(10) 16(4) 34(26)
難治(N=7) 2(0) 4(1) 1(0)
出血(N=3) 1(0) 2(2)
癌 (N=2) 2(2)
計 206(73) 87(16) 25(6) 94(51)
( ):開腹術既往有の例数
※HALS(hand-assisted laparoscopic surgery):ハンドアシスト腹腔鏡下手術
どのような患者さんが腹腔鏡補助下手術の適応となるのでしょうか。

腹腔鏡補助下手術は、緊急手術を要する"絶対的適応"(穿孔、腸閉塞など)には不向きで、"相対的適応"でも、すでに開腹手術の既往があり、かなりの癒着が認められる場合や、ひどい膿瘍の場合は、開腹手術を選択します。腹腔鏡補助下手術のメインターゲットは、狭窄に対する初回手術例、あるいは初回手術が腹腔鏡補助下手術である再発例などになります。ただし、最近は、経験を重ねるにつれ、すでに開腹手術の既往がある場合でも、腹腔鏡補助下手術で行える患者さんを経験するようになってきています。

今後も、安全性・確実性を最優先とし、クローン病に対して腹腔鏡補助下手術を積極的に試みていきたいと考えています。

腹腔鏡補助下手術のメリットを教えてください。

開腹手術と腹腔鏡補助下手術は、腸管に対する処置は同じです。その違いは腹壁に対する傷害の大きさです。手術創は開腹手術で15~16cm、腹腔鏡補助下手術で3~4cmであることから、開腹手術は腹壁に対して大きな傷害を与えているといえます。

そのため、腹腔鏡補助下手術は開腹手術に比べ、(1)術中出血量が少ない、(2)術後疼痛が少ない(鎮痛剤の使用量が少なくてすむ)、(3)術後腸管麻痺が少ない、(4)手術侵襲からの早期回復、(5)入院期間の短縮、(6)術後癒着が少なく、癒着性イレウスの発症頻度が低くなるなどのメリットがあるほか、美容的にも利点があります。

このようなメリットは、若い患者さんが多いクローン病ではとくに大きいと思われます。また、抗TNFα抗体療法による術後再発の予防に期待がもてるようになりましたが、再発を完全に防げるわけではないので、再度手術が必要となった場合には、腹腔鏡補助下手術により、手術への身体的、精神的負担を軽減したいと考えています。

クローン病に対する腹腔鏡補助下手術の歴史はまだまだ浅く、誰でもができるという手術ではないため、現時点では日本の限られた施設に患者さんが偏っています。今後、クローン病に対して腹腔鏡補助下手術を実施できる医師を1人でも多く育成すると共に、実施経験を蓄積し、その対象となる患者さんを拡大していきたいと思っています。

患者さんへのメッセージ

根津理一郎先生

クローン病は、「原因不明で、完全治癒が困難な難治性の病気」と聞いて、非常に大きなショックを受けられたと思います。しかし、完全治癒が困難な病気はクローン病だけではなく、糖尿病や高血圧など多くの病気がそれに当たります。

クローン病は希少な疾患ですが、糖尿病と同じように、上手に病気と付き合えば、その後、何十年と自分らしく生きることが可能な病気になりました。それは、近年のクローン病治療の進歩により、内科的にも、外科的にも相次いで新しい治療が開発され、治療の選択肢が増えたことによります。

外科的治療は、身体的、精神的に負担を生じることから敬遠されがちですが、内科的治療が奏功しない場合には、適切な時期に前向きに受けることが大切です。

治療を受けるにあたっては、"入院や手術を繰り返さない"ことを最大の目標にして、医師から最新の情報を入手し、医師とよく相談し、今の自分に最も合った治療法を選んで欲しいと思っています。

(2013年5月現在)